2019.11.08

こっちも面白い女子マンガの真髄(後編)ー女性をサポートする物語が、女性を動かす

女子マンガは、女性向けの商品やサービスと同じように、常に女性の味方。彼女らをいかに元気づけ、肯定し、発言力をあげていくかをテーマとしてきました。女性に寄り添いながらその本音を読み解き、深層心理を浮き彫りにして、今もヒットを生み続けています。
今回は女子マンガに詳しい早稲田大学文化構想学部助教のトミヤマユキコさんに、その歴史や作品を通じて、女性をとりまく世相の変化や女性心理を紐解くポイントについて教えていただきました。

※この記事は2017年12月に掲載されたインタビューを再構成したものです。

変容する王子様像

女性をリードしない王子

'90年代に大ヒットした『美少女戦士セーラームーン』では、タキシード仮面という王子様キャラの描かれ方が特徴的です。彼は女の子たちをリードするのではなく、あくまでサポートに徹します。地球を守ることがセーラー戦士の「仕事」と捉えれば、女同士で協力し合い、何ができるのかを考え続けることが大事。
ですから、タキシード仮面が彼女たちの前にしゃしゃり出てこないのは、正しい判断だと言えるでしょう。また、作品がクライマックスに近づけば近づくほど、セーラー戦士たちが強くなり、相対的にタキシード仮面は弱くなる。王子様は必ずしも強くなくてもいい、女の子を守らなくてもいい、という描かれ方になっています。

『のだめカンタービレ』の千秋も、サポート上手な王子様。容姿やキャリアはパーフェクトですが、のだめみたいな女の子を放っておけない面倒見の良さが魅力的に描かれています。ちなみに、彼がのだめのキャリア形成をどう見ているかと言うと、「君には圧倒的な才能があるのだから、まずは仕事できることを全部やって欲しい。恋愛は二の次でよい」というスタンスです。

最初こそのだめを引っ張っていくメンター的立ち位置ですが、彼女がピアニストとして力をつけてくると、今度は後方支援に回ります。こうしたポジションの切り替えができる千秋は、とても頭のいい王子様だと思いますし、女性の出世に嫉妬しないという意味で、キャリア系女性にはうれしい王子様ではないでしょうか。

働いている女性たちに話を聞くと、本当に辛いのは、一番好きな人にすら、仕事での頑張りを認めてもらえないことだと言います。頑張っている女性の成長を、近くにいる男性たちがどれぐらい見ているのか、ということも女子マンガにおいては重要です。

イケメンという言葉の登場とともに変化した王子像

女子マンガの王子様像が時代とともに変化しているということも、見逃せない点です。これは「イケメン」という言葉の登場と関わりがあると、私は考えています。

イケメンが出てきたときに、「残念なイケメン」「雰囲気がイケメン」「行動がイケメン」といったように、イケメンという言葉の使い方が多様化しました。そうした状況に呼応するようにして、女子マンガも、顔がいいとか、スペックがいいだけではないイケメンを描くことができるようになった。誰が見ても最高という男ではなくても、「どこかがイケていたら、この物語の中ではイケメンと見なします」という宣言ができるかどうかが、大きかったと思うのです。

傍が何と言おうと、「これが私の王子様です、何か問題でも?」と開き直れる。このことは、みんなが欲しいものを手に入れなければ敗者であるという時代が終わり、自分にとっての幸せが何なのかをよく考えてごらんなさい、という時代になっていることの証だと思います。

半歩先の未来を描く

女子マンガは一歩とか半歩先の未来

大学の授業でよく言うことですが、女子マンガは、一種の未来予想図です。とくに売れている女子マンガには、こんな社会になっていたらいいな、こんな人生が待っていたらいいな、という希望が織り込まれています。現在を活写しているように見えて、実はちょっと先の未来へとつながっている。そのため、読者の行動に影響を及ぼすのだと思います。

例えば『逃げるは恥だが役に立つ』は、結婚の未来を描写しています。実際に作品で描かれたような家庭生活を営めるかは別としても、結婚とは何かということについて、パートナーと腹を割って話せること、理性的かつ効率的に結婚生活をマネジメントしていけること。これは、少し先の未来で実現したら嬉しいことであり、新しい婚姻関係の提案なのです。

逃げるは恥だが役に立つ(1)著:海野 つなみ

昔の女子マンガは、およそ手の届きそうにない未来も描かれていました。しかし、現代の女子マンガは、「ここまでだったらいけるかも」と思わせてくれる距離感の近さというか、ちょっと先の未来につながるテーマが、上手に組み込まれていると思います。もちろん、いつの時代でも通用する物語の型というものもありますが、未来予想をよりリアルに感じることができる描き方は、女子マンガが獲得してきた"芸"だと思います。

女子マンガとビジネス、そのルールとは

近年、女性の情報接触方法の変化には目まぐるしいものがありますが、一度女子マンガにはまった女性に卒業はないと言われています。
マーケティングの世界で、顧客のライフタイムバリュー(生涯価値)が注目されて久しいですが、企業、商品、サービスと女子マンガを結び付けることで、どのようにビジネスの成果を高めることができるのか、できるとすればどんなことに留意すべきか、教えていただきました。

RULE 1 女子に「変われ」と言わない

理想の"いい男"即ち、女心を射止める法

バリキャリ女性が仕事で力をつければつけるほど、「女を捨てている」と思われることがあります。ところが『美少女戦士セーラームーン』では、どれだけ強くなろうが、戦闘能力が高まろうが、「それでも君が好きだ」と言ってくれるタキシード仮面がいつも隣にいてくれます。
しかも上から目線で「好きだ」と言うのではなく、尊敬もこめて「好きだ」と言ってくれる。こうした男性は、現代女性にとって理想です。仕事をすることが当たり前になり、能力を生かして活躍したい女性たちに対してどう振る舞うのがいいのか、そのヒントがこのマンガにはあります。

また、『のだめカンタービレ』では、天才型の女の子と、秀才型の王子様が登場して、どういう関係性だと仕事も恋もうまくいくかというテーマでストーリーが展開されていきます。二ノ宮作品では、仕事と恋なら、必ず恋が後回しです。恋があるから頑張れるというよりは、いったん恋は忘れて、仕事をある程度のところまで進めなさい、そのほうが絶対に恋もうまくいくよ、という話になっています。今、仕事が忙し過ぎて恋がお留守になる女性たちの背中を、今は仕事をやらなきゃいけないときだから割り切っていいのだ、仕事を頑張ったからって恋が逃げていくことはないと後押しする。

人生は仕事と恋愛の二者択一ではないのだと説く王子様に、希望を感じる女性は多いと思います。女に変われと言うのではなく、彼女たちを理解し、サポートする存在であるからこそ、多くの女性読者が好感を持つのでしょう。

RULE 2 参加する余地がある

完結した後でも動きが止まらない

居酒屋で働く女の子が、自分のために理想のマンションを買う『プリンセスメゾン』という作品がきっかけで、不動産サイトを見るようになったという女性の知人友人が、わたしの周りに結構いました。それまで、独身女性の不動産購入は、「自分用のマンションを買う=男はいらない」という、ある種恋愛を諦めた女性の行動という印象でした。それがこの作品の登場で、自分の好きなものを揃えた自分のお城を買うという、女性のポジティブな行為として認識されるようになったのです。

そうはいっても、年収の低い女性がマンションを買うことは、不動産購入に関する知識がちゃんと描かれていないと、難しい。ですが、この作品はその点もちゃんと踏まえて書かれています。このように、"読者が参加する余地"がうまく作られた作品は、作品自体が完結した後でも、持ち家女子のムーブメントを動かし続ける力があると思います。

RULE 3 物語があって、生活に近いもの

『セーラームーン』の展開例

『美少女戦士セーラームーン』は、少女マンガ史において非常に重要な作品で、ビジネス的にも注目度の高い作品です。『セーラームーン』とコラボした商品がたくさん出ていますが、誰が買うかといったら、大人が買っているわけです。もしかしたら現役の少女たちは、『セーラームーン』を読んでいないかもしれませんが、元少女たちが作品をずっと愛し続けていて、それが時代を超えた購買・消費にも結びついています。本当に稀有なコンテンツです。

『セーラームーン』の関連商品がめちゃくちゃ売れるという現象をよくよく観察してみると、『セーラームーン』という物語そのものを消費するというよりは、コンテンツのイメージを核として、その周りに商品をどう配置していくかが重要だということがよく分かります。男性もキャラクターグッズが好きだと思いますが、男性と少し違うのは、女性は生活に密着したグッズを特に好むということです。ビジネスとして成功させたいなら、単にキャラクターを利用するだけではなく、コンテンツイメージとモノとの接点を作るほうが、女性の購買意欲を刺激するかも知れません。

例えばダイエット商品を売りたいならば、「あなたは太っている、だから痩せるべきだ」という正論よりは、「この時までに、こういう自分でいたいと思うなら、ダイエット頑張れますよね?」といった話法で、そこに「変化してゆく自分」という「物語」があるほうが響くと思います。

「物語で女性の気持ちを掻き立てるということ」と、「生活に密着しているということ」。この二つが、女子マンガ読者を動かす鍵だと思います。

話を聞いた人
トミヤマユキコ (ライター/早稲田大学文化構想学部助教)
1979年秋田県生まれ。早稲田大学法学部、大学院文学研究科博士後期課程を経て、文化構想学部助教に。ライターとして「ESSE」や「エル・グルメ」などで執筆。大学では、少女小説、少女マンガについての研究を行う。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方』(左右社)』がある。

講談社が提供する各種プロモーションサービスのご利用に関するお問い合わせ・ご相談はこちら