2019.10.08

カップルでも「露天ひとり旅」が増えた理由~ドキドキ・キュンキュンより「癒されたい」(前編)

こんにちは。マーケティングライターで世代・トレンド評論家の、牛窪(うしくぼ)恵です。今月から、消費税率が10%になりましたね。
軽減税率もキャッシュレスも複雑だし、レジャー関連の費用は軒並み、10%台に上がるし......10、11月は秋の「旅行シーズン」ですが、行こうかどうかと迷っている方もいるのでは?

毎日放送「ミント!」のスタジオにて

恋人がいても、ひとり旅がいい

ところで皆さんは、異性の恋人と「カップル」で旅行に行ったことがありますか? 「ある」という方は、旅先で恋人に何を期待するでしょうか?

ロマンチックな場所に連れて行ってくれること? 旅先の美味しい食堂やレストランでの食事? ......あるいは、付き合い始めた段階では、温泉などで"いちゃいちゃしたい"なんて想像も、頭をよぎるのではないでしょうか?

ですが近年、旅における驚きの傾向が2つ、顕著になってきました。
1つは、近年「カップル旅行(恋人との旅行)」が減少傾向にあること。もう1つは、20代男子を中心に「恋人がいても、ひとり旅がいい」と希望する傾向が、顕著になってきたことです。

例えば、リクルートライフスタイルの「じゃらん」が今年7月に発表した、「じゃらん 宿泊旅行調査2019」。同社は毎年この調査を行っていますが、この中で「カップル旅行」は、調査対象の全世代(20~79歳)において、この14年(2004~18年度)で8.1%から7.8%へと、僅かながら減りました。

他方、目立って伸びたのが「ひとり旅」。04年度段階では10.5%だった「ひとり旅の経験(年間)」が、18年度には18.0%に増えました。
とくに20~34歳の若い世代では、女性で7.2%(04年度)から14.4%(18年度)に、男性でも14.9%から27.4%にと、いずれも約2倍に増えました。とくに男性では、「恋人との旅行」より、1割近くも多いのです。

◆宿泊旅行の同行形態(単一回答)
出典:リクルートライフスタイル「じゃらん宿泊旅行調査2019」

一体なぜなのか。まず考えられるのは、よく言われる「恋人がいない男女」の急増です。

明治安田総合研究所の調査(16年度)によると、現在20代で「恋人がいる」人は、男性で22.3%と5人に1人、女性で33.7%と3人に1人のみです。逆にいえば、20代男性の8割弱、女性の7割弱に「恋人がいない」ことになり、とくに男性では08年度の調査に比べると、「いる」割合が半減しました。

また、同じ調査で「異性との交際経験が一度もない」20代は、男性で53.3%、女性で34.0%と、20代男性で5割を超えました。恋人や交際経験がなければ、当然ながら「カップル」で旅行する機会は減りますよね。逆に「ひとり旅」が増えるのも、納得がいきます。

◆現在恋人がいる人の割合
出典:16年度 明治安田総合研究所「20~40代の恋愛と結婚に関する調査結果」

無理してまで、カップルで旅行しなくても

先の「じゃらん」のリサーチセンター長・沢登次彦さんは、先日「恋人がいるのにひとり旅を好む」20代男子の増加について、こう話してくださいました。

「女性との旅行は、若い男性にとって、精神的負担を伴う場合も多い。それぐらいなら、ひとり旅のほうが気楽でいい、無理にカップルで旅する必要はないと考える20代男性は、決して少なくないようです」(沢登さん)。

確かに、カップルで旅すれば、それなりに気を遣うし、ケンカもするでしょう。
DeNAトラベルの調査(17年)でも、カップルで旅行に行った人のうち、半数近く(47.1%)が「恋人(あるいは妻や夫)と、旅先でケンカしたことがある」と回答。とくに男性では、「恋人(妻)の態度が悪かった」(40%)や、「準備を手伝ってもらえなかった」(30%)が、ケンカ理由の上位を占めました。

そのうえ、"旅先でいちゃいちゃ"を求めないのであれば、あえてカップルで旅に出る必要はないかもしれません。
実際に私が取材しても、ここ数年は「彼氏と温泉旅行に行ったのに、エッチ(性交渉)も何もナシで帰ってきた」や、「せっかくホテルに"お泊まり"したのに、ゲームとカラオケだけで夜が明けた」といった20代女子の嘆きを、多数耳にします。

女性からすれば、「お泊まり」となれば、それなりに夢や期待に胸が膨らみます。
「異性とのお泊まり」に関する調査でも、たとえ近場に1泊であっても、「行く前からその気で行く(心の準備をしておく)」が、男性では半数以下(49.0%)だったのに対し、女性では7割弱(66.3%)もいました(14年 楽天リサーチ調べ)。
ご想像の通り、女性はお泊まりの際、下着や身体のお手入れも含め、もろもろ「準備しなきゃ」と身構えます。にも関わらず、旅先で何もしてこなかったとなれば......、当然「私って魅力がないの?」と、一旦は落ち込みますよね。

私が取材した女性の多くも、「いまか、いまかとドキドキして待ったのに、結局は何もナシ。悔しいから、彼のアホみたいな寝顔を撮ってやった」や、「そこまで自分が女としてイケてないのかと、温泉で何度も鏡に写した」などと嘆いていました。

でもやがて、彼女達は言うのです。「考えてみれば、彼氏が旅行代を奢ってくれるわけじゃないし」「それぐらいなら、初めから女同士やひとり旅のほうが、気がラクなんですよね」と。「ドキドキやキュンキュンは疲れる」「むしろ、ひとり温泉で癒されるほうがいい」と。

ある女性誌の編集長も、「『彼氏を誘って、ロマンチックに過ごそう』といった温泉露天風呂特集が、若い女性に人気を得たのは、12~3年ぐらい前まで」だと言います。
「いまや、"カップルで露天風呂"の特集に惹かれるのは、一部の(ギャル系の)女子ぐらい。一般の20代OLたちは、どんどん彼氏に期待しなくなっている。それだけ、彼氏が『どうせ何もしてくれない』と分かっているからでしょう」(某編集長)

一方の男性達も、「彼女と旅すると、期待されすぎて疲れる」とため息を洩らします。
つい最近、私が取材した20代男子も、軒並み「旅行となると、男が計画するのが当たり前、みたいな風潮がイヤ」や、「せっかく気張って宿を手配しても、『センスない』といった目で(彼女に)見られるから懲り懲り」などと呟いていました。

計画疲れを嫌い、気ままなひとり旅へ

マーケティングの「行動心理」の観点で言うと、旅先で男女がケンカする理由は、元々「旅に求めるものが、男女で違うから」と言われてきました。
例えば、少し前(13年)に「星のや」で知られる星野リゾートが行なった「恋旅調査(恋と旅に関する調査)」。この中で、「恋人との旅行で、不満を感じることは?」と聞かれて、「予定を何も立てない=ノープラン」だと答えた割合は、男性では28%に留まったのに対し、女性では44%と半数弱にものぼりました。

また、「男は思いつきで行動する」の回答も、男性自身は17%しか「はい」と答えていませんが、女性では31%と約2倍。それだけ、「男はノープランで、思いつきで旅する生き物だ」と不満に思う女性が多い証拠でしょう。

ところが近年は、その女性でさえ、旅に「計画疲れ」を感じています。旅のオンライン販売を行なう「旅工房」が20~40代女性に行なった調査によると、旅の計画について「手間がかかる、難しい」と感じたことがある女性は、7割超(70.5%)にも達しました。
ストレスの原因は、「情報や選択肢が多い」(66.7%)や、「すぐに好みの情報が見つからない」(52.5%)など、いわゆる情報過多。だからこそ、事前に恋人や友達と細かく計画する旅より、ひとりで気ままに行動できる「ひとり旅」の需要が高まっているのかもしれません。

男女のカップル文化は崩壊したのか?

振り返れば、旅や飲食、レジャーなどの場で、カップルではなく「女子会」「男子会」といった同性同士のプランが登場し始めたのは、いまから10年ほど前の2008~09年ごろ。
私もよく覚えていますが、当時、居酒屋チェーン「笑笑(わらわら)」を運営するモンテローザの大神輝博社長が、女性向け業態を活性化すべく、「女子会プラン」と銘打ったプランを展開し始めたのがきっかけだとされています。

その後、テレビ番組や雑誌媒体がこぞって取り上げるようになり、2010年には「女子会」が新語・流行語大賞のトップテンを受賞しました。

他方の「男子会」も、私が08年、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える!』(講談社α新書)を書いた翌年ぐらいから、次々と登場するように。当時、彼ら草食系男子は、「なぜ女子会があるのに、男子会がないんスか?」「それって、逆差別じゃないスか」と不平を洩らしていました。

いまや、ホテルや旅行サイトにも「男子会プラン」が溢れています。また番組でも、若手の男性俳優3人が旅する、テレビ番組「男子旅」(Dlife)や、DJのLead氏が男子とワイワイ盛り上がる、ラジオ番組「木曜日の男子会」(Fm yokohama)などが、若い男女に支持されるように。
「男同士の旅って、ミステリアスでゾクゾクする」など、女性陣にも好評です。それだけ、男子旅が当たり前どころか、むしろステイタスにさえなってきたからでしょう。

ただし、「恋人との旅が面倒」だからといって、「男女のカップル文化」が完全に崩壊したわけではありません。その一例が、「男友達・女友達」、つまり男女関係にはない、異性の友達カップルの急増です。
これもまた、「中性化」と言える現象の一つですが......ここから先は、次回をどうぞお楽しみに!

筆者プロフィール
牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)

世代・トレンド評論家。マーケティングライター。修士(経営管理学/MBA)。大手出版社勤務等を経て、2001年4月、マーケティング会社・インフィニティを設立、同代表取締役。著書やテレビ出演多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネート。新刊は「なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?」(光文社新書/共著)

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