2019.08.13

新時代のマーケティング戦略論 <第2回>SDGsとマーケティング(後編)

中小企業の多くがSDGsに力を注ぐことに消極的である現状。大手企業がCSRとして取り組むものと捉えられがちなSDGsを、現実的な形で大小問わず企業が活用するには、どのような方法が望ましいのでしょうか? 前編では、SDGsの意味を再確認すると共に、SDGsに取り組むときに気をつけるべき点をまとめました。後編はそのポイントをもとに国内の事例をご紹介し、成功するための共通点を考察していきます。

SDGsでマーケティングが変わる―課題解決力をインパクトにつなげるには

後編:マーケティングにSDGsを。事例から学ぶ波紋の起こし方と解決力

既存の事業や取り組みの中にSDGsを見出す事例

EARTH MALL with Rakuten 公式サイト

前編でお伝えしたSDGsを活用する第一歩は、既存の事業や取り組みとSDGsの関連性はないか検討することでした。SDGsはあくまで世界が共通認識として持つべき課題とゴールをまとめたものなので、SDGsのために新規事業を創出することが必要ではありません。
既存の事業を活用し、効率良くSDGsに取り組んでいる企業の事例を紹介します。

インターネット・ショッピングモール「EARTH MALL」は、楽天市場で扱う膨大な数の商品の中から、環境、社会、経済に貢献する商品を抽出したコンセプト・ショップです。本サイトは、SDGsの目標のひとつ、「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」への取り組みとして楽天株式会社が発表しました。ショップ内には商品だけでなく識者インタビューなどのコンテンツも掲載しており、消費者にメッセージを発信するメディアとしても機能しています。

ここで注目すべき点は、楽天はこのショップを企画・運用するにあたって、ゼロから何かを生み出したわけではないということです。楽天市場で培ったノウハウやリソースを横展開し、SDGsに応じたキュレーションを行うことで、本サイトは成立しています。

この取組の結果、2018年4月から約半年で「EATH MALL」の月間PV数や月間流通総額は順調に伸長しているそうです。SDGsのメッセージ性を活用し、消費者の共感と購買意欲を結びつけることに成功したということです。

SDGsへの取り組みに消極的な企業の多くはSDGsの認知度が低いことを懸念しています。しかし、SDGsの知名度そのものは価値ではなく、人類共通の課題に取り組んでいる企業の姿勢が価値であることを、本事例は教えてくれます。

特に本事例のように消費者にサービスや商品を提供する領域では、SDGsへの取り組みをいち早く消費者に理解させ、ファン化した企業が今後の市場で優位に立つでしょう。

社員との関係性構築にSDGsを活用する事例

ロアジスジャパン公式サイトに掲げられる3つのキーワード

SDGsを用いることでコミュニケーションを活性化できるのは、対顧客だけではありません。事業マッピングにSDGsを用いることで組織内の意識を向上させた事例として、ロアジスジャパン株式会社の取り組みをご紹介します。

ロアジスジャパン社はオーガニックペットフードを中心にペット関連のアイテムを販売する、総合ペットブランドです。ネパール産のミルクを用いたペットのおやつ商品は、オーガニックな素材から生まれた食品によるペットの健康維持と、素材を生産するネパール生産者の雇用創出双方に寄与しています。

ロアジスジャパン社のSDGsへの取り組みは、段階的なものでした。はじめにSDGsの概念を理解するための時間を計画的に設け、社員全員で勉強会を実施しました。その後、SDGsをもとにした自社活動のマッピングに挑戦。事業や製品開発方法、物流のプロセスや職場環境作りなどをSDGsが目指す世界に紐づけ、企業が与える社会的インパクトが何であるかを可視化しました。

その結果、SDGsに基づいた販売アイデアが提案されるなど、社員の意識に変化が生じました。自分たちの仕事が何に役立っているのか、どんな社会課題を解決しているのかを認識できたことで、社員のモチベーションが向上したのでしょう。

SDGsに取り組み始めた年のロアジスジャパン社の売上は前年比20%増。SDGsを自社の理念とすり合わせ、全社の機運を高める手段として活用したことが功を奏したようです。

長期的なスパンで見たSDGsの力

SDGsは顧客、社員の他、投資家への訴求力があります。投資家は社会の課題解決に直結する投資を実現するため、SDGsを評価軸とした企業価値の検討を行う傾向が強まっています。この流れの加速はSDGsへの取り組みに積極的な企業の優位性を高め、貢献度の低い企業の評価は徐々に下がっていくでしょう。

最後に、長期的な取り組みが必要なSDGsの性質と合った「まちづくり」の事例もご紹介します。北海道ニセコ町は内閣府地方創生推進室による「SDGs未来都市」として選ばれ、先導的なSDGsへの取り組みを高く評価されています。

住人約5千人の小規模な町でありながら人口が微増の傾向にあるニセコ町は、スキーリゾートを生かした観光業と、自然の土地を生かした農業の双方で経済的な成功を遂げています。住民参加と情報共有の2軸をもとに町のルールを作っていく独自の方法で主体的な自治が行われている点でも独自性があり、全国初の「まちづくり基本条例」を制定した町でもあります。

さらに、それらの町の資源と発展をSDGsの概念と照らし合わせることで、住みやすく持続性のある町づくりを実現しているのです。具体的な取り組みとして、環境保全への施策、観光・農業による雇用創出や経済促進などが複合的に進んでおり、各領域で2030年に向けた目標が設定されています。温室効果ガス総排出量削減については62,327t-CO2から25,781t-CO2へ、まちづくりへの住民参加や情報共有の満足度は47から70へなど、それぞれの数値は現実的かつ具体的です。

優れた自然条件が生み出すパウダースノーが観光価値を高め、ニセコ町はインバウンド戦略においても成功しています。海外観光客をターゲットとした宿泊施設や飲食店を経営する移住者も多く、国外への発信が容易な土壌が作られています。この特徴を生かし、ニセコ町はSDGsへの取り組みとまちづくりの構想を国外にも発信しており、サステナブルな観光都市のモデルケースとして注目されています。

このように、SDGsは投資家や海外顧客に対して企業や町の価値を伝える世界共通のキーワードとして機能します。SDGsに取り組む企業や地域は資金力のある層に訴求し、今後一層支援を集めていくでしょう。

グローバル企業間ではSDGsへの貢献度による他社との競り合いが既に始まっており、戦略的なメッセージの発信をする企業が目立ちます。大手飲料メーカーであるコカ・コーラは、SDGsの一貫として容器由来の廃棄物を削減する方針を「容器の2030年ビジョン」としてまとめ、プラスチック資源循環利用のモデルケースを世界に示す意気込みを発表しました。
本ビジョンはSDGsへの先進的な取り組みとして他社に共有し得るモデルケースを構築すると共に、圧倒的優位のアピールにもつながります。

SDGsがもたらす新規市場で優位に立つことは、2030年以降持続的かつ展望のあるビジネスモデルを手に入れることにほかなりません。やや規模の大きな話だと感じるかもしれませんが、これらの競争はやがて持続可能な社会を作るための大きな流れに合流するものであり、各企業が志すビジョンは同じであることも心に留めておきましょう。

SDGsとマーケティングの交点を見出す企業の共通点

ここまでは具体的な事例を参考に、SDGsの活用が企業価値を高めることについて説明しました。これらの成功事例から見えるSDGsの活用法の成功パターンについて考えてみましょう。

第一に、成功するSDGsプロジェクトは明確なKGIとKPIを設定しています。SDGsで描かれたゴールに漠然と取り組むのではなく、各企業の事業や強みを生かして取り組めるゴールを抽出し、自社での目標を新たに設定することが必要です。

また、いずれの事例も組織の一部によるものではなく、あらゆる立場の人を巻き込んでSDGsへの関心を高めています。SDGsへの取り組みはCEOやCSR部門の人々によって促進される傾向がありますが、必要性の理解や熱量をメンバーに共有することが、シナジー効果の高い取り組みにつながります。

そして、SDGsに基づく自社の取り組みを精力的に発信することが、活発な市場活動と新たな販売戦略を生み出します。SDGsと照らし合わされた各企業の使命感は、顧客や投資家に対する優れたメッセージとして誇れるものです。

例えば、女性誌FRaUの公式ウェブサイト『FRaU Web』は、講談社のデジタルメディア『現代ビジネス』と協業し、SDGsに関わる社会的なテーマを扱う記事を発信することで大幅なPV数向上を実現しました。FRaU既存の読者層への訴求だけでなく、ビジネスや社会派の話題に興味を持つ新規ファン創出の効果も生まれており、SDGsマーケティングを成功させている一事例として注目すべきでしょう。

強力なメッセージをもとに生んだ共感や興味関心をどのような価値につなげるかは、各企業の戦略次第です。
あなたの企業では、SDGsを活用してどのような価値を生み出せますか?

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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