2019.07.17

過去最高益へつながる「厳選集中」│ジャパネットホールディングス社長インタビュー(後編)

クルージングの販売は
多角化でなく厳選集中だった

夏目 ジャパネットは新商品も投入していますね。例えば日本と海外をめぐるクルージングは非常に売れ行きがいいとか。

https://www.japanet.co.jp/shopping/cruising/

高田 桁ちがいの売り上げを記録しています。商品販売のお声がけをいただいて、私自身がクルージングを体験し"当社のお客様におすすめできるのでは?"と思ったんです。あと最近「モノ消費よりコト消費」と言われていますよね。これも肌で感じていたので......。

夏目 旭人社長のアンテナにかかったんですね。

髙田 はい、そこで「この分野でPDCAを繰り返してみよう」と考えたんです。まず、当社の社員たちと一緒に乗船しました。すると改善すべきポイントが山ほど見えてきて「これは行ける!」と。
 今も乗船するたびに面白い改善をしていますよ。イタリア人シェフと「日本人はこんな味付けを好むから」と打ち合わせして料理が少し変わっていたり、気づけばマヨネーズやしょうゆが日本製に変わっていたり、案内板が見やすくなっていたり。一流のシェフに「味つけをこうしましょう」と打ち合わせを行い、実現するためには労力も必要ですが、こういう工夫の積み重ねが当社の価値なんです。ひとつ一つはとても地味で、繰り返すのは地道な作業です。しかしこれを続けると確実に満足度も上がっていきます。

夏目 では逆に「ジャパネットがやらない分野」ってあるんですか? 例えばウォーターサーバーは既に人気ですが、これが売れるなら、保険や化粧品を売ってもいいじゃないですか。

髙田 そこがポイントなんです。ジャパネットは自分たちが磨く余地があるものは扱いますが、ほかは売りません。例えば保険も化粧品も、ありがたい話、オファーをいただいたことはあります。しかし保険商品も化粧品も既に磨き抜かれていて、お客様が「あえてジャパネットで買う理由」はつくり出せないと判断したんです。
 一方、クルージングは皆さんがあまりその魅力をご存知でなく、私たちが乗った時「すごくいいけど、まだこうしたほうがいい、と思える気づきがいっぱいある」状態でした。しかも当社のお客様にも合っています。そこで、ここにチャレンジしたらぴったりハマったんですね。

夏目 なるほど、最初、クルージングの話を聞いた時「ジャパネットは多角化したのかな?」と思ったんですが、これ、むしろ得意分野に集中する「厳選集中」だったんですね。


「長崎スタジアムシティプロジェクト」新会社設立・地域創生ビジョン発表会にて、スポーツ・地域創生事業への想いを発表する髙田社長

世の定石を覆すのは
「愛」なのかもしれない

夏目 では、ある意味「日本トップクラスの商人」である旭人さんに質問です。旭人さんは「売る」という行為のなかで何を大事にしていますか?

高田 実は「売り込む」感覚をあまり持たないようしています。

夏目 えっ!? あれだけ商品を売り込んでおいて!?

髙田 商品のよさを伝えることと「売り込む感覚」の間には大きな差があるんですよ。詳しく言えば「無理に手にとってもらおうという感覚を持たない」ということです。お客様には「買いたい臨界点」があります。例えばそれが100なら、100を突破すればお客様は買ってくださるんです。なら120の商品を仕入れて、全部を伝えられなくても100伝わればそれでいい。逆に80の商品を100に見せるようなことは絶対にしちゃいけないと思っています。
 だから、よく「ジャパネットは売り方が上手い」と言われますが、そうじゃないんです。もちろん、一番伝わる売り方は研究します。価格優位性から伝えたり、メーカーの特徴から伝えたり。場合によっては「去年これだけ売れました」と実績から伝えるなど、常にトライアンドエラーを繰り返しています。でも、商品を大きく見せるようなことは絶対しません。数年後に必ず悪い反響として返ってくるはずですからね。

夏目 御社が長くお客さんから愛される理由がよくわかりました。

髙田 実は私自身も、それはもういろんな商品を買って試しているんですよ。父と違ってテレビで商品を売ることはしませんが、家族に「あなたほどよくものを買う人はいない」と言われるほど自分で試しています。そうでなければ、お客様にとってハッピーな売り方はできないんです。

夏目 そんな強い思いが世の常識を打ち破ったのが御社の歴史なのかもしれませんね。
 では最後に、JリーグのV・ファーレン長崎(ヴィファーレン長崎)の話もお聞かせください。お父様が社長になってから強くなって、人気もうなぎ登りですよね。しかもジャパネットホールディングスとして長崎にスタジアム、アリーナ、ホテル、マンション、オフィスなどの複合施設を500億円以上かけて建てるとか......。

高田 ええ、実は今、私たちは「スポーツ・地域創生」というもう一つの事業領域をつくっているんです。

夏目 これもやっぱり「ジャパネット流」ですか?

髙田 そうですね。スタジアムビジネスもスポーツビジネスも、やはり研究するほど定番に収束していきます。「長崎の市場規模だとこのスタジアムは大きすぎる」とか様々なデータがあって、スタジアムビジネスにもプロの方たちから「現実的にこうしないと無理ですよ」といった情報もいただきます。でもそこが戦うポイントなんです。

夏目 具体的には......?

髙田 例えばホテルのオペレーションは全部、自分たちでやろうと思っています。普通、海外の有名ホテルを誘致して、そのノウハウを利用しますよね。でも、それで起こることは一般的なつくりの部屋ができ、一般的なサービスをご提供でき、収益は定番通りに収束していく、という未来なんです。
 そのため当社は自分たちでやります。例えばスタジアムの中にスイートルームを10室くらいつくって、部屋から試合を観ることができて、朝食会場はスタンド、なんてできたら面白くないですか? また自分たちでやることによって施設とチーム運営のシナジーを出すこともできます。例えばスタジアムには選手の家族のための席もつくろうとしています。理屈を言えば、特等席は売ってしまった方が利益は出るでしょう。でも自分が選手だったら奥さんや子どもが落ち着いて見られる場所がほしいですし、リスペクトを感じてもらった方が選手のモチベーションもあがるはずです。こうして細やかに人の気持ちを想像しながらスタジアムやホテルを設計し、チームを運営していけば何かが起こるんです。そして、こんなアイデアをいくつ実現できるかが勝負なんです。

夏目 簡単に言えば「愛が世の定石を変える」ってことですね。

髙田 しかも、これを長崎につくることに意義があるんです。東京で成功しても、大阪、名古屋くらいまでしか横展開できません。でも長崎で実現して収支が合えば日本中のあらゆる場所で横展開できます。一極集中という国全体の問題もありますが、解決のきっかけになれるかもしれません。

夏目 わかってきましたよ。御社はあえて「ノウハウ」にとらわれず「ジャパネット流」を築く企業なんですね。すると、クルージングのような「コト消費」の市場でも、スポーツビジネスのようなまったく別の市場でもうまくいく......。

髙田 そうかもしれません。私たちは小売の業界に「マス媒体を使って自信を持っておすすめする」という企業とお客様の新たな関係性を築きました。そして次は、このノウハウを持って小売以外の分野にも進出しようとしている――そんな段階なのかもしれませんね。

【プロフィール】
たかた・あきと/1979年、長崎県生まれ。東京大学を卒業し、証券会社に入社。その後、株式会社ジャパネットたかたへ入社、商品開発推進本部長などを歴任し、2010年、株式会社ジャパネットコミュニケーションズ設立時に社長就任。その後、2015年に、株式会社ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任し、以来現職。

夏目幸明プロフィール
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。「マーケティング、マネジメント、技術がわかれば企業が見える」と考え、これらを報じる連載を持つ。講談社『週刊現代』に『社長の風景』を連載、大手企業トップのマネジメント術を取材する。著書は『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。現在は「夏目人生法則」のペンネームでも活動し、Itmedia、ダイヤモンドオンラインなどで記事を連載する。

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