2019.05.30

「特殊ペプチド」が人類を変える!│ペプチドリーム社長インタビュー 後編

特殊ペプチドによって
化粧品や健康食品も変わる!

パトリック 当社は世界の大手製薬会社(メガファーマ)を含む国内外の製薬企業と共同研究開発を行っています。そしてこの契約は、開発プロクラムごとに"契約一時金"、さらに"開発ステージの進捗ごとのマイルストーン収入"をいただき、医薬品の発売後は売上高に応じたロイヤルティ収入を受け取る内容となっています。
 バイオベンチャー企業の多くは、特定の企業と開発契約を締結し、1つや2つといった数少ない医薬品候補化合物の開発を進めていますが、これはとてもリスクの高いビジネスモデルだと思われます。一方当社は国内外19の製薬企業と共同研究開発を進めており、開発候補物質は自社開発品を含めると98プログラムあります。100近い創薬を進めている企業は世界的にもほとんどないのではないかと思います。――このように特定の企業やプログラムに偏重しないことが創業以来の当社の事業理念なんです。リスクヘッジができていることにより、万が一、どれかの研究が途中でストップしても影響が軽微で済む体制になっています。これは、企業の持続的成長に必要なことでもあるはずです。

夏目 メガファーマはライバルでなく、貴社は手を結んでいるんですね。

パトリック はい。当社はこれまで"我々は得意なものに特化し、得意でないものは得意なところに任せる"という発想でやってきました。当社は医薬品の候補化合物(ヒット化合物等)を見出すことは得意ですが、臨床試験や製造についてはノウハウがありませんし、それを行う企業体力もありません。これまで多くの医薬品を世に出してこられ、ノウハウを蓄積されているメガファーマと一緒にプロジェクトを進めることは、より様々な薬を、より早く市場に届けることにおいて大切だと思っています。

夏目 気になるのは、何年待てばよいかです。「基礎研究はできたけど実際の医薬品ができるまでは何十年もかかる」といった話じゃないんですよね?

パトリック 新薬の発売時期を予想することは非常に難しいですね。正確に「いつ」とは言えませんが、我々は中期計画で"2022年6月末までに1つ以上上市する"という目標を掲げていて、これは達成できると考えています。

夏目 どんな薬が生まれるか楽しみですね。

パトリック 我々と製薬会社は、PDPSから見い出されたヒットペプチドを基に3つのタイプの創薬開発を進めています。
 1つ目は得られた特殊環状ペプチドそのものを医薬品化する「特殊ペプチド医薬品」、2つ目は、特殊環状ペプチドから得られる情報(標的タンパク質のどこに、どのように結合しているか等)を用いて候補物質を低分子化してつくる「低分子医薬品」、3つ目は特殊環状ペプチド高い特異性と強い結合力を持つという特性を生かし、標的タンパク質に薬物を届ける"運び屋"として使用するPDC(ペプチド-薬物複合体)医薬品です。PDC医薬品に関しては、今年に入って中枢神経疾患領域で新規契約や既存の開発プログラムの研究開発で大きな進捗がありました。この分野は開発スピードも早いと考えられ、今後おもしろくなってくるとみています。

夏目 医薬品以外の領域にもPDPSは使えるそうですね?

パトリック はい、たとえば化粧品にも使えるため、より効果的な商品が生まれる可能性があります。健康食品やサプリメントに使えば、医療費の削減にもつながるかもしれません。さらには動物にも使えるため、ペット業界や畜産業にも大きな影響があるかもしれません。しかも新しい農薬ができるかもしれません。いま我々が行っているのは、それほどにイノベーティブな事業なんです。

マサチューセッツ工科大学の学生たちがペプチドリームを訪問。
中央がパトリック社長

医療の現場で問題になる
貧富の格差を解消したい

夏目 貴社の技術によって業界が一気に変わろうとしていることがよくわかりました。では最後に、現状や貴社の課題を伺いたいのですが。

パトリック 既に当社のPDPSが持つ能力は国内外の製薬を中心とする多くの企業から注目を集めており、現在、当社は世界のメガファーマ10社のうち7社と契約を締結しています。そして、進行しているプロジェクトのうち2件は臨床試験まで進んでいます。今後、PDPSを使った医薬品の開発は、製薬業界のさらに大きな潮流になっていくでしょう。

夏目 一方、課題はいかがでしょう?

パトリック 特殊ペプチド医薬品の課題は製造分野にありました。これまで世の中になかったものですから、既存の受託製造会社(CMO)に依頼しても製薬企業が望む品質や価格で製造することが難しく、これが開発スピードに影響を与えていたんです。そこで我々はこのボトルネックを解消するため、塩野義製薬や積水化学工業と提携を結び「ペプチスター」というペプチドの原薬製造受託会社を立ち上げています。これによって今後、前臨床試験や臨床試験に使用するペプチド原薬の供給が可能になるため、開発の進捗スピードはさらに早まると予想しています。

夏目 では最後に、未来を予測したいと思います。まず、今後も低分子医薬品や高分子の抗体医薬はそのまま残るんでしょうか?

パトリック あくまで私の予想ですが、抗体医薬が担っていた役割は、今後、ペプチド医薬品が多くを担うようになっていくと思います。一方、低分子医薬品は、PDPS由来の副作用の少ない低分子医薬品が出てくることで活性化されるのではないかと思います。

夏目 「人がより長生きする世の中が来る」とも感じたのですが?

パトリック そうですね、PDPS由来の医薬品が、これまで有効な治療薬がなかった疾患領域に新薬を提供する時代がそう遠くない未来に来るのではないかと思っており、人が若くして亡くなる確率が低くなるのかな、と思います。

夏目 生命保険業界の方が、今後は「長生きがリスクの時代が来る」と言っていました。がんなども治る時代が来るからこそ、今まで以上に老後の蓄えが必要だ、と言うんです。終身生命保険に入っておいたほうがいいかな......(笑)。

パトリック しかし、平均寿命の長短には、薬や医学だけではない様々な要素が絡んできます。これは薬だけでキュアするものではないので、生活習慣を変えていくことが求められますね。今後は多くの病気が治る世の中になるからこそ、個人個人が健康寿命を伸ばしてより充実した生活をおくる努力が必要なのかもしれません。

夏目 では最後に......日本の医薬品産業は毎年2兆5千億円近い金額の輸入超過、いわゆる貿易赤字を記録しています。これも将来は変えていけそうですか?

パトリック はい。当社及びぺプチスターのビジネスが順調にすすめば、日本の医薬品産業は黒字化し、日本経済のけん引役になるかもしれません。というより、そうしなければなりません。私の将来の夢は、いい薬をつくり、当社を世界最大の製薬会社にすることなんです。

夏目 かっこいい!

パトリック さらにもう一つ夢があります。創薬の効率化をさらに進め、薬価を下げていきたいんです。日本だけでなく世界中で高齢化が進んでおり、医療費の上昇に各国の政府は頭を抱えています。このままでは、お金を持っている方だけが最先端の医療の恩恵を受け、そうでない人は助かるはずの命も助からない世の中になってしまいます。
 ――私は将来、これも解決していきたいんですね。

【プロフィール】
リード・パトリック/1975年、米国バーモント州生まれ。2003年にダートマス医科大学を卒業し、2004年から東京大学先端科学技術センター特任助教授に就任し、2005年、東京大学国際産学共同研究センター客員助教授就任。その後、ビジネスと医学、両方の知識を活かすため、2007年にペプチドリーム株式会社へ参画。2012年に常務取締役、2017年に代表取締役社長に就任し、以来現職

夏目幸明プロフィール
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。「マーケティング、マネジメント、技術がわかれば企業が見える」と考え、これらを報じる連載を持つ。講談社『週刊現代』に『社長の風景』を連載、大手企業トップのマネジメント術を取材する。著書は『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。現在は「夏目人生法則」のペンネームでも活動し、Itmedia、ダイヤモンドオンラインなどで記事を連載する。

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