2019.05.30

「特殊ペプチド」が人類を変える!│ペプチドリーム社長インタビュー 前編

2022年に大ニュースになる!?
医薬品業界のパラダイムシフト最前線!

いま、医薬品業界で激変が起きつつある。がんやアルツハイマーなどの難病にも効く薬をつくりだすことができ、しかも将来は薬価が下がる可能性もあるというのだ。この革命を起こす企業が「ペプチドリーム」。東京大学発のバイオベンチャーで、社長のリード・パトリック氏は「将来、日本は医薬品の輸出大国になる」と予言する。

がん、糖尿病、炎症や感染症、
すべての病気に対応できる!

夏目 まず、社名にも使われている「ペプチド」とはどんなものなんですか?

パトリック 2個以上のアミノ酸が「ペプチド結合」によってつながってできた分子を「ペプチド」といいます。"どんなアミノ酸で構成されるか"、"アミノ酸がどうつながっているか"によって区別されるため、膨大な種類があり、様々な働きをします。人間の体の中で働いている信号伝達物質やホルモンも、その多くはペプチドです。

夏目 なかでも御社がつくる「特殊ペプチド」とは?

パトリック 通常のペプチドは人間の生体内にある20種類のアミノ酸(天然アミノ酸)によって構成されますが、自然には天然アミノ酸以外に700種類を超えるアミノ酸(非天然型アミノ酸、または特殊アミノ酸と呼ぶ)が存在します。そして我々は、天然アミノ酸と特殊アミノ酸を結合させたものを「特殊ペプチド」と呼んでいて――当社・ペプチドリームはこれを大量に創製し、新しいタイプの医薬品を開発すべく設立されました。
 いままで、特殊ペプチドをつくる際にはアミノ酸と特殊アミノ酸を科学的に1つ1つ結合させる必要があったため膨大な手間がかかり......特殊ペプチドを創薬技術として実用化することは難しいと考えられていました。しかし当社の創業者の1人である東京大学の菅裕明教授は、化学合成でなくバイオテクノロジーを用いて、特殊ペプチドを自在に、しかも簡単に大量につくることができる技術を開発したのです。

夏目 特殊ペプチドを使った医薬品はいままでの医薬品とどこが違うのですか?

パトリック 医薬品の業界では長らく、分子量の小さい化合物「低分子化合物」をもとに開発した「低分子医薬品」が主流でした。これらは分子量が小さいので生産しやすく、体に吸収されやすいため飲み薬になる、という優れた点があります。しかし"副作用が多い"という欠点もありました。低分子医薬品は、病気の原因となる薬の標的分子に対して点で結合するため"ここと結合してほしいのに、隣の箇所と結合する"といったことが起き、しばしば副作用をもたらすのです。
 この問題点を解決するために「バイオ医薬品」という新たな医薬品が生まれました。人間の体の中で起きている仕組みを使うもので、その代表が「抗体医薬」です。これは人の免疫細胞が外敵から身を守るために作り出す「抗体」を基に作られています。バイオ医薬品は標的とする分子に対して高い特異性を持って(標的とする分子だけを選んで)強く結合し、その機能を抑えます。だから効果が高くて副作用も少なく、現在、医薬品の販売上位品目の半分以上を占める大きな市場を形成しています。
 しかし抗体医薬にも欠点があります。動物細胞や大腸菌などを用いた培養によって生産するため、製造コストが高いのです。また低分子医薬品に比べ分子量が非常に大きく数百倍にも及ぶため、細胞内には入り込めません。病気の原因の半分以上は、細胞内の異常に起因すると言われていますが、抗体の標的は細胞表面や細胞外のものに限定されるのです。さらに、抗体医薬が生まれて20年が経過するため、これから順次特許切れを迎え、利益が出にくくなるという問題も抱えています。
 そこで世界中の研究者が、抗体医薬の次に来る新たな時代の主力薬の候補を探しています。抗体医薬と低分子医薬品の"いいとこどり"の性質を持つもので、具体的に言えば「抗体医薬なみの高い特異性、結合力を持ちながらも、分子量が小さく、細胞内標的にも対応でき、製造コストが安い」ものです。そして我々は、当社の特殊ペプチドを用いて開発される医薬品こそが、この最有力候補だと考えています。

夏目 なるほど、では特殊ペプチドの技術を使った医薬品によってどんな病気が治るようになりそうですか?

パトリック いままで医薬品の成分が届かなかった場所にも届けることができるようになるかもしれません。また副作用が強く実用化できなかった医薬品が実用化できるようになるかもしれません。具体的に言えば、がんなどの難病だけでなく、糖尿病、各種の炎症や感染症、さらには中枢神経系の病気など、ほぼすべての病気に対応できると考えられます。しかも治療薬だけでなく診断薬にも使えるから病気の予防もしやすくなるはずです。

夏目 それ、大革命じゃないですか......。

ペプチドリームの株主総会後に行われた経営説明会に登壇するパトリック社長(左)

必要なペプチドを検索する
"PDPS"って何だ?

夏目 ところで、東京大学の菅裕明教授が開発した技術、すごいですよね。

パトリック はい、専門的な説明は省きますが、現在は特殊ペプチドを簡単につくり出せるだけでなく、試験管より小さいミニチューブの中で、1兆種類以上の特殊ペプチドをわずか1時間程度でつくりだすことが可能になっています。
 ちなみにこの技術は菅教授が生物学と化学、両方に精通したから生み出せたと思います。菅教授の研究は当初、生物学者からも化学者からも正しく理解されることはなかったそうです。菅教授はよく「異端を貫けば先端になる」と言われていますが、そうだと思います。そして2006年、この技術を創薬の世界で活かすため、我々はペプチドリームを発足させました。

夏目 そこからは......?

パトリック 会社設立後の数年間は、独自の創薬開発プラットフォームシステム「PDPS(Peptide Discovery Platform System)」を完成させることに集中しました。特殊ペプチドを用いて医薬品開発をしている会社は当社以外にもあります。ただし特殊ペプチドを1兆種類以上作って、その中から最適なものを選び出すことができるのは当社のみです。

夏目 詳しくお教えください。

パトリック 医薬品の開発は、よく"鍵穴に合う鍵を探す"作業ににたとえられます。病気の原因となるものに結合する物質を選ぶことが重要なのです。そんななか、従来は数百万種類の鍵(様々な物質)の中から、鍵穴にはまる(病気の原因となるものと結合する)物質を探し、試行錯誤を繰り返していたから、医薬品の開発には膨大な時間がかかりました。
 しかし我々は1兆種類を超える特殊ペプチドをつくることができ、しかも「PDPS」を使えば、バーチャルではなくリアルにある1兆種類以上の特殊ペプチドの中から、標的分子に強く結合するものを短期間に選び出せます。そこからヒット候補化合物にモディファイ(最適化)していけるため、医薬品の開発にかかる時間を大幅に短縮できるのです。

夏目 わかってきましたよ。第一の進歩は、いままで医薬品に使おうにも製造が大変で難しかった特殊ペプチドを簡単に自在にしかもケタ違いにつくりだせることなんですね。これによって、従来の技術ではつくれなかった薬もつくれるようになるかもしれない。そして第二の進歩は「検索」。アナログの情報よりデジタルの情報のほうが優れている理由は"検索可能だから"と言われます。1兆種類を超える特殊ペプチドのなかから"鍵穴にはまる鍵"を絞り込んだ上で医薬品を開発できることが、またすごい進歩なんですよね。

パトリック はい。当社の方法を使うと最初に正解を提示できるため、製薬企業の方たちは驚きます。そこから最適化するのは製薬企業の得意分野です。だからいま、世界中の大手が我々と共同で創薬開発を行っています。
 いま製薬企業の開発スキームは、新薬ができる可能性が高い候補化合物を買い、研究を進めることが主流になっています。しかし製薬企業で働く方の多くは、自分たちが一から作り出した物質によって創薬したい、と考えているはず。そして当社と提携すれば、これを実感できます。標的分子の提供は製薬企業が行うので"この薬は当社が一から開発したもの"と言えますからね。

夏目 なるほど。

パトリック しかも将来、PDPSを用いた創薬は医療経済にも貢献する可能性が高いと思います。医薬品の価格は高い要因の一つは、開発までに長期間かかり、それに伴う費用が年々拡大していることです。しかしPDPSを使えば、従来、1~3年かかっていた医薬品の候補物質の絞り込みが3~6カ月で見つけられるようになります。加えて、特殊ペプチドは標的分子に対して高い特異性と結合力を持っているため副作用の発生が少なく、医薬品開発の成功確率が高くなることが予想されます。これにより、PDPSを用いた創薬の開発費用は従来薬と比べて大きく抑えられると考えられます。

夏目 御社が株式市場で高く評価されているのもうなずけますね。

パトリック この高い技術力を背景に製薬企業との契約も順調に増加しており、現在、PDPSを用いた創薬共同研究開発契約を締結している企業は19社になりました。国内製薬企業が7社、海外製薬企業が12社です。そして、まだ特殊ペプチドを使った新薬はできていませんが、当社は上場以降、黒字を確保しており、業績も右肩上がりを継続しています。

夏目 えっ、まだ新薬ができていないのに黒字なんですか?

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