2017.12.14

女心をとらえて仕掛けるためために│トミヤマ助教に教わる女子マンガとビジネス

近年、女性の情報接触方法の変化には目まぐるしいものがありますが、一度女子マンガにはまった女性に卒業はないと言われています。マーケティングの世界で、顧客のライフタイムバリュー(生涯価値)が注目されて久しいですが、企業、商品、サービスと女子マンガを結び付けることで、どのようにビジネスの成果を高めることができるのか、できるとすればどんなことに留意すべきか、トミヤマユキコさんに教えていただきました。

RULE 1 女子に「変われ」と言わない

理想の"いい男"即ち、女心を射止める法
バリキャリ女性が仕事で力をつければつけるほど、「女を捨てている」と思われることがあります。ところが『美少女戦士セーラームーン』では、どれだけ強くなろうが、戦闘能力が高まろうが、「それでも君が好きだ」と言ってくれるタキシード仮面がいつも隣にいてくれます。

しかも上から目線で「好きだ」と言うのではなく、尊敬もこめて「好きだ」と言ってくれる。こうした男性は、現代女性にとって理想です。仕事をすることが当たり前になり、能力を生かして活躍したい女性たちに対してどう振る舞うのがいいのか、そのヒントがこのマンガにはあります。


また、『のだめカンタービレ』では、天才型の女の子と、秀才型の王子様が登場して、どういう関係性だと仕事も恋もうまくいくかというテーマでストーリーが展開されていきます。二ノ宮作品では、仕事と恋なら、必ず恋が後回しです。恋があるから頑張れるというよりは、いったん恋は忘れて、仕事をある程度のところまで進めなさい、そのほうが絶対に恋もうまくいくよ、という話になっています。今、仕事が忙し過ぎて恋がお留守になる女性たちの背中を、今は仕事をやらなきゃいけないときだから割り切っていいのだ、仕事を頑張ったからって恋が逃げていくことはないと後押しする。

人生は仕事と恋愛の二者択一ではないのだと説く王子様に、希望を感じる女性は多いと思います。女に変われと言うのではなく、彼女たちを理解し、サポートする存在であるからこそ、多くの女性読者が好感を持つのでしょう。


RULE 2 参加する余地がある
完結した後でも動きが止まらない

居酒屋で働く女の子が、自分のために理想のマンションを買う『プリンセスメゾン』という作品がきっかけで、不動産サイトを見るようになったという女性の知人友人が、わたしの周りに結構いました。それまで、独身女性の不動産購入は、「自分用のマンションを買う=男はいらない」という、ある種恋愛を諦めた女性の行動という印象でした。それがこの作品の登場で、自分の好きなものを揃えた自分のお城を買うという、女性のポジティブな行為として認識されるようになったのです。

そうはいっても、年収の低い女性がマンションを買うことは、不動産購入に関する知識がちゃんと描かれていないと、難しい。ですが、この作品はその点もちゃんと踏まえて書かれています。このように、"読者が参加する余地"がうまく作られた作品は、作品自体が完結した後でも、持ち家女子のムーブメントを動かし続ける力があると思います。


RULE 3 物語があって、生活に近いもの

『セーラームーン』の展開例
『美少女戦士セーラームーン』は、少女マンガ史において非常に重要な作品で、ビジネス的にも注目度の高い作品です。『セーラームーン』とコラボした商品がたくさん出ていますが、誰が買うかといったら、大人が買っているわけです。もしかしたら現役の少女たちは、『セーラームーン』を読んでいないかもしれませんが、元少女たちが作品をずっと愛し続けていて、それが時代を超えた購買・消費にも結びついています。本当に稀有なコンテンツです。

『セーラームーン』の関連商品がめちゃくちゃ売れるという現象をよくよく観察してみると、『セーラームーン』という物語そのものを消費するというよりは、コンテンツのイメージを核として、その周りに商品をどう配置していくかが重要だということがよく分かります。男性もキャラクターグッズが好きだと思いますが、男性と少し違うのは、女性は生活に密着したグッズを特に好むということです。ビジネスとして成功させたいなら、単にキャラクターを利用するだけではなく、コンテンツイメージとモノとの接点を作るほうが、女性の購買意欲を刺激するかも知れません。

例えばダイエット商品を売りたいならば、「あなたは太っている、だから痩せるべきだ」という正論よりは、「この時までに、こういう自分でいたいと思うなら、ダイエット頑張れますよね?」といった話法で、そこに「変化してゆく自分」という「物語」があるほうが響くと思います。

「物語で女性の気持ちを掻き立てるということ」と、「生活に密着しているということ」。この二つが、女子マンガ読者を動かす鍵だと思います。

トミヤマユキコさん ライター/早稲田大学文化構想学部助教
1979年秋田県生まれ。早稲田大学法学部、大学院文学研究科博士後期課程を経て、文化構想学部助教に。ライターとして「ESSE」や「エル・グルメ」などで執筆。大学では、少女小説、少女マンガについての研究を行う。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方』(左右社)』がある。

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