2017.12.11

変容する王子様像│トミヤマ助教に教わる女子マンガの系譜 ポイント③

ポイント③変容する王子様像
女性をリードしない王子

'90年代に大ヒットした『美少女戦士セーラームーン』では、タキシード仮面という王子様キャラの描かれ方が特徴的です。彼は女の子たちをリードするのではなく、あくまでサポートに徹します。地球を守ることがセーラー戦士の「仕事」と捉えれば、女同士で協力し合い、何ができるのかを考え続けることが大事。

ですから、タキシード仮面が彼女たちの前にしゃしゃり出てこないのは、正しい判断だと言えるでしょう。また、作品がクライマックスに近づけば近づくほど、セーラー戦士たちが強くなり、相対的にタキシード仮面は弱くなる。王子様は必ずしも強くなくてもいい、女の子を守らなくてもいい、という描かれ方になっています。

『のだめカンタービレ』の千秋も、サポート上手な王子様。容姿やキャリアはパーフェクトですが、のだめみたいな女の子を放っておけない面倒見の良さが魅力的に描かれています。ちなみに、彼がのだめのキャリア形成をどう見ているかと言うと、「君には圧倒的な才能があるのだから、まずは仕事できることを全部やって欲しい。恋愛は二の次でよい」というスタンスです。

最初こそのだめを引っ張っていくメンター的立ち位置ですが、彼女がピアニストとして力をつけてくると、今度は後方支援に回ります。こうしたポジションの切り替えができる千秋は、とても頭のいい王子様だと思いますし、女性の出世に嫉妬しないという意味で、キャリア系女性にはうれしい王子様ではないでしょうか。働いている女性たちに話を聞くと、本当に辛いのは、一番好きな人にすら、仕事での頑張りを認めてもらえないことだと言います。頑張っている女性の成長を、近くにいる男性たちがどれぐらい見ているのか、ということも女子マンガにおいては重要です。

イケメンという言葉の登場とともに変化した王子像


女子マンガの王子様像が時代とともに変化しているということも、見逃せない点です。これは「イケメン」という言葉の登場と関わりがあると、私は考えています。

イケメンが出てきたときに、「残念なイケメン」「雰囲気がイケメン」「行動がイケメン」といったように、イケメンという言葉の使い方が多様化しました。そうした状況に呼応するようにして、女子マンガも、顔がいいとか、スペックがいいだけではないイケメンを描くことができるようになった。誰が見ても最高という男ではなくても、「どこかがイケていたら、この物語の中ではイケメンと見なします」という宣言ができるかどうかが、大きかったと思うのです。傍が何と言おうと、「これが私の王子様です、何か問題でも?」と開き直れる。このことは、みんなが欲しいものを手に入れなければ敗者であるという時代が終わり、自分にとっての幸せが何なのかをよく考えてごらんなさい、という時代になっていることの証だと思います。

トミヤマユキコさん ライター/早稲田大学文化構想学部助教
1979年秋田県生まれ。早稲田大学法学部、大学院文学研究科博士後期課程を経て、文化構想学部助教に。ライターとして「ESSE」や「エル・グルメ」などで執筆。大学では、少女小説、少女マンガについての研究を行う。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方』(左右社)』がある。

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