2017.12.08

愛されヒロインはドジ│トミヤマ助教に教わる女子マンガの系譜 ポイント②

ポイント②愛されヒロインはドジ
"ドジっ子"ヒロインは、時代が変わろうとも愛される

たとえ欠点だらけだったとしても、光の射す方へ歩いていけるヒロインは愛されます。ところが、完璧なヒロインというのは、あまり愛されません。

例えば、その作品が"凄く好きな人と、凄く苦手な人"とにはっきり分かれる作家さんがいたとして、苦手な人に理由を聞くと、「キャラクターが完璧過ぎる」という答えが返ってくることがあります。リアルではないから評価できない、ということです。マンガはフィクションなので、本来はリアルでなくてもいいはずなのですが、完璧すぎるヒロインは敬遠されがち。一見パーフェクトに見えるけれど駄目なところもあるキャラクターでないと、感情移入が難しいのです。パーフェクト過ぎるキャラクターがどれだけすてきな恋をしていても「しょせん他人ごとでしょ!」と感じてしまうのかもしれません。だからこそ、ドジっ子ヒロイン像は、時代がどれだけ変わろうとも愛されているのだと思います。

『美少女戦士セーラームーン』の主人公・月野うさぎは、まさにドジっ子ヒロインです。世界を救うだけの潜在能力を秘めながらも、普段の彼女は、ゲーム好きで勉強の苦手な女の子。本当は凄い女の子なのに、駄目なところがある。このバランス感覚は、『はいからさんが通る』の頃からずっと講談社が継承してきた、女子マンガの"愛されヒロイン"の"型"だと思います。

バリキャリ女性も私生活では抜けている

読者年齢が上がると、ヒロインのドジっ子部分は、恋愛のシーンに現れます。『きみはペット』は、超バリキャリのヒロインが、若い男の子をペットとして同居させるという話です。ヒロインのスミレは、職場ではツンとしていて怖いくらいのイメージですが、日常生活は結構抜けていて、素を見せると可愛いところもある。社会人としては立派でも、プライベートではただの"ドジっ子"。そのギャップが読者には愛されるのです。『東京タラレバ娘』は、まさに"大人のドジっ子"。ヒロインとその友人は、東京で仕事をしており、職業的には成功していると言っていいと思いますが、恋愛のことになると、てんで駄目になる。ターゲットが大人の女性になると、ドジの部分が仕事ではなく恋愛に集中していく。しかし、だからこそ、愛されヒロインたりえるのだと思います。

きみはペット(1)著:小川 彌生

"お見積もりが低い女性"に踏み出す勇気を


"ドジっ子"ヒロインには「私なんか」という、ちょっと卑屈な気持ちがあったりしますが、これはフィクションだけでなく、現実も一緒です。大学で教えていても、そんなに見積もりを低くしなくてもいいのにと思う女子学生がたくさんいます。

今の女子学生は、何かにチャレンジする際、「成功したい」という気持ちより、「失敗したくない」という気持ちの方が強いようです。彼女たちの就職活動を見ていると、特にそれを感じます。でも、彼女たちだって、全くチャレンジしたくないというわけじゃないんです。ちょっと保険を掛けたいというか、「転ぶかもしれないけど、膝を擦りむく程度だから大丈夫だよ」みたいなことを、家族なり、恋人なりに言ってほしいという気持ちがあるのかなと思います。

今の時代、女としての自信のなさは、化粧を頑張るとか、整形するとか、独力である程度は克服できます。けれども、社会人としての自分がどれぐらい高みに登れるかは、はっきり言って未知数です。だからこそ、職業人としての自分を正しく評価してもらえたら嬉しいわけです。これは単に「上司に評価されたい」のではなく、様々な人と関わる中で、自分のいい所を知り、将来のキャリア形成に繋げたいということだと思います。特に成人女性向けのマンガでは、そうした局面がよく見られます。

ヒロインのキャリア形成が分かりやすい形で描かれているのが『のだめカンタービレ』です。音大に通うヒロイン・のだめは、自分は幼稚園の教員でよいと思っているのですが、彼女の天才性を評価し、フックアップしてくれる男子が現れて、世界的ピアニストを目指すようになります。

のだめカンタービレ(1)著:二ノ宮 知子

「可愛い君に恋しました」みたいなことよりも、ヒロインのやりたいことを正しく評価し、強く背中を押してくれる人の存在が求められているのかなと思います。

トミヤマユキコさん ライター/早稲田大学文化構想学部助教
1979年秋田県生まれ。早稲田大学法学部、大学院文学研究科博士後期課程を経て、文化構想学部助教に。ライターとして「ESSE」や「エル・グルメ」などで執筆。大学では、少女小説、少女マンガについての研究を行う。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方』(左右社)』がある。

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