2019.01.16

キッザニアは大人を対象とした施設でもあった│キッザニア KCJ GROUP 社長インタビュー 後編

実を言うとキッザニアは
大人を対象とした施設でもあった!?

夏目 一つ伺いたいのですが、これだけのスポンサーが集まったのもまたすごいことだと思います。大きな資本があったわけでなく、「エデュテインメント」という言葉もほぼ使われていませんでした。

※エデュテインメント=楽しむ(エンターテインメント)+学ぶ(エデュケーション)の造語

住谷 徒手空拳だったなか様々なスポンサードを受けられたのは、背景に思想があったからでしょう。もちろん、前職からのお付き合いでプレゼンテーションさせていただいたこともありますが、お付き合いだけで資金は集まりません。多くの企業幹部が、日本の現状に危機感を持っていたんです。「勉強しなさい!」から始まる勉強でいいのか? そのまま大人になって仕事が楽しめるのか? と。

夏目 ちなみにキッザニアのスポンサードをするメリットはどんなところにあるのですか?

住谷 まずはCSRにつながります。キッザニアの職業・社会体験は、こどもたちがコミュニケーション力、チームワーク、ホスピタリティなど、様々な能力を身につけられるように考えられています。また、親子両方へのブランディングにもつながります。良い体験の中で企業特性をつかんでもらえるからです。

夏目 スポンサーさんから言われてうれしかったことはありますか?

住谷 皆さん「従業員や現場の人間たちのモチベーションがグッと上がったように見える」とおっしゃいますよ。

夏目 こどもたちにとってカッコいい職業になった、という感覚があるんでしょうか?

住谷 それもあるかもしれませんし、従業員の方たちが「自分たちの仕事を理解してもらえた」と感じる部分もあると思います。働いている皆さんにはきっと、「本当はここまで考えているんだよ」「仕事としてやっているけど、喜んでほしい」といった思いがあるはずです。それをこどもに体験し、理解してもらえた、という喜びもあると思います。もちろんそれは、保護者にも伝わるでしょう。実を言うとキッザニアは大人も対象にした施設なんです。こどもたちの気づきは、保護者の方にも伝わっていくはずですからね。

夏目 完成度が高いビジネスモデルなんですね......。

飛行機の搭乗口に佇む住谷社長。ここから、こどもの国キッザニアに入国できるのだ

グローバルよりコスモポリタンの時代がやってくる

夏目 では、キッザニアの運営のなかで、住谷さんが懸念する部分はありますか?

住谷 よく「グローバル化を進める」といった言葉を聞きますが、私は今後、望まれるのは「コスモポリタン」だと思っています。「グローバル」は、どこか「世界の仕組みを統一しよう」という試みのように感じます。みんな一つの価値観で考えて、こういうのが偉い人で、こういう人たちは貧しい、と決めつけてしまうシステムに見えてなりません。 
一方「コスモポリタン」には、自然や歴史から生まれたそれぞれの地域の特徴ややりかたを尊重しつつ、地球規模で活躍する人材、という意味があります。歴史が全人類の共存をゴールとするなら、私はコスモポリタンのほうがうまく行くと思います。
 資本主義の世の中だと、大抵はお金を持っている人は羨ましがられ、相対的にお金がない人たちは貧しいとされますが、そんな一軸で人間の評価をしていいわけがありません。現在は経済の軸が資本主義だから、仕方ないと言えば仕方ないのですが、周囲を見渡しても、全員が全員、お金持ちになりたいと思っている人ばかりでもないじゃないですか。

夏目 それに対するアクションは?

住谷 現在のキッザニアも、コスモポリタン的な考え方に基づいて運営されています。消防士、裁判官、サービス業など様々な職業を経験すれば、様々な視点でものを考えられるこどもたちが育つと思うんです。また、中学生向けカリキュラムの「コスモポリタン キャンパス」も開催しました。4Cスキル(コミュニケーション、クリティカルシンキング等)や、国境や文化の違いを超えて共生することの大切さを学ぶために、各界の第一線で活躍する人物を招いて「世界の中の日本を知ろう」「AIとヒトの未来とは?」「哲学対話にチャレンジ」といったテーマで講義とワークショップを行うものです。
 私は、多くのこどもがそれぞれの能力や持ち味を活かして、ともに尊敬しあって生きる世界にできたらいいな、と夢見てもいます。

夏目 もし教育産業が「学校教育では学べないことを補完する」ものなら、時代を追って、塾で受験対策をする、エデュテイメントで職業を知る、その次は4Cやコスモポリタン的な考え方を身につける、と進化して行くのかもしれませんね。

"将来の教育産業"は
学校教育と社会のはざまにある

夏目 では最後に、キッザニアにいらっしゃる保護者の方に、何か望むことはありますか?

住谷 帰り道、こどもの話を聞いてあげてほしいですね。こどもには一人ひとりいろんな特徴があり、こどもなりにやりたいこともあるでしょう。そして、話をしながら「この子、本当はこれがやりたいのかな?」とか「これが楽しかったのかな?」と引き出してあげてほしいんです。
 親の希望で「あなたはこれが向いてるから」とか「この仕事やったらどう?」と言うより、こどもが自分で考え、気づくままに任せつつ、話を聞いて整理してあげるほうがこどもは力強く成長します。そんな形でキッザニアの体験を使ってもらえたらうれしいですね。

夏目 将来への危惧はありますか?

住谷 今、将来の産業体系がどうなっていくのかが見えず、懸念しています。科学技術が発達することで、職人さんも店員さんもロボットにかわっていくと言われます。しかし、科学技術によってすべての職業が必要なくなるとは思えません。そのバランスがどうなるのかが気がかりなのです。ことによっては科学技術の進化に引っ張られて人間の生き方が変わってしまい、それが本当に目指す社会ではなかった、といったことも起こりえるのではないか、と。

夏目 もう少し詳しくお教えください

住谷 仮に収入を得る方法を考えなくていいとするならば、現在は1ヵ月でも2ヵ月でも外に一歩も出ず生活できます。食事もネットで届けてくれる、洗濯物もとりに来てくれる、エンターテインメントも見放題......。それはラクなはずです。しかし人は退化していくでしょう。運動もしない、人と関わって気をつかったり、感謝したりすることもない。それでいいのか? と思うのです。

夏目 なるほど。

住谷 さらに大きな問題は、そういった社会がいいか悪いか議論されていないことです。「科学技術を活かしてどんな社会をつくっていくべきなのか」という理念がないまま、技術は「これも、あれもできますよ」と発達していく。技術の進歩は素晴らしいことですが、議論も理念もないから、社会が後追いで追随していくだけになっているんです。

夏目 わかってきました。そんな風に、社会は勝手に進歩してしまう部分があります。そして、国家が施そうとする教育と、親や社会が望む人材の育成には、常に開きがあるわけです。だから今後の教育産業はそこを埋めていくことが重要なんですね?

住谷 そうかもしれません。そして、こどもたちが自分で学びたいものを学べる環境は、大人たちがつくっていくしかないんです。

【プロフィール】
住谷栄之資(すみたに・えいのすけ)/1943年、和歌山県生まれ。'65年に慶應義塾大学商学部を卒業し、藤田観光株式会社へ入社。その後、ハードロック・カフェ、カプリチョーザなど、20以上のレストランブランドを国内外で展開する外食事業会社WDI GROUPの創業に参画し、同社社長を経て退職。2004年キッズシティージャパン(現・KCJ GROUP)を設立、代表取締役社長兼CEOに就任し、以来現職。

夏目幸明プロフィール
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。「マーケティング、マネジメント、技術がわかれば企業が見える」と考え、これらを報じる連載を持つ。講談社『週刊現代』に『社長の風景』を連載、大手企業トップのマネジメント術を取材する。
著書は『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。現在は「夏目人生法則」のペンネームでも活動し、Itmedia、ダイヤモンドオンラインなどで記事を連載する。

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