Future View業界未来図

夏目幸明責任編集
21業種 経営者が語る業界未来図

井上慎一社長

金融・保険

株式会社クレディセゾン(前編)

生き残るため、タブーを破れ!

横並びなんてつまんない!
クレディセゾンが始める「クレジットカード改革」

強烈なイノベーターの登場だ。クレディセゾン・林野宏社長。1980年代、当時は大企業の社員くらいしか持てなかったクレジットカードを主婦や学生にも広め、90年代にはサインレス決済を一般化。林野氏の登場まで倒産寸前だった同社は、一気に流通系クレジットカードとして業界のリーディングカンパニーへと成長した。金融業界のレジェンドが、イノベーションの起こし方、今後の業界の在り方を語る!

もっともカードを使わない
人たちにカードを発行していた

夏目:日本の金融業界で、先陣を切って主婦や学生に与信枠を設け、サインレス決済を導入するなど、様々な改革を進めてこられましたね。

林野:生き残るってことは、イコール「新しいものを創り続ける」ことなんです。昨日と同じってことは、他が先に進んでいる分、自分は退化してるってことなんですよ。だから、人は常に「次はどう変わろう」と考えてなきゃいけない。1980年代初頭に「お客さんに名前と電話番号と住所を書いてもらえば即与信、即発行、即使用可能」というアイディアを出したのも、生き残るために必死だったからです。

夏目:西武百貨店にお勤めだった林野さんがこの会社に来たとき、経営状態は悪かったんですね?

林野:潰れそうでした。かつて当社は「緑屋」という月賦販売の小売業でした。しかし'70年代頃から経営が悪化し、店舗も少なくなり、セゾングループの傘下に入ったのです。私はこの時期に、今は亡き堤清二さんから、この企業をクレジットカード会社として再建するよう指示されました。具体的なビジョンはすぐ描けました。当時、米国は既にカード社会で、高額紙幣を使うとレジの従業員に偽札かと疑われ透かしを見られるなど、現金よりカードが信頼されていたんです。私は「日本でもこれと同じくらいカードが使われる社会をつくろう、それを当社が実現すれば生き残れる」と考えました。じゃあ何ができるか――? この時、一つだけわかっていたことがあります。「革新的な何かをしなければ敗者復活はありえない」ということです。

夏目:業界の「暗黙の了解」とか「横並び」意識なんかかまってられるか! って話ですよね。こっちは命がかかってるんだから。

林野:そうです。なかでも私には疑問があった。信販系、銀行系のカード会社の方に与信の条件を聞いたとき「東証一部上場企業に10年以上お勤めで、家は持ち家」と言うんです。でも私は西武百貨店から来たでしょ? 持ち家や役職がある上場会社の社員さんは、たいてい奥さんに買い物を任せていて、百貨店には来ないんです。

林野社長西武百貨店から西武クレジット
(現クレディセゾン)に移って

夏目:銀行業界は「雨がふったら傘を取り上げる(資金繰りが厳しい会社から資金を引き揚げようとする)」なんて言われますよね。それと同じだ(笑)。

林野:ええ。当時は「もっともカードを使わなさそうな人たちにカードを発行している状態」だったんです。だったら当社は、与信枠は少ないけれど、即与信、即発行にしよう! と。もちろん当社にもリスクはあるけど、与信枠数万円で返済不能になる方は少ないはずだし、そんなことより多くの方にカードを使ってもらうほうが大切だ、と考えたんです。

夏目:顧客が利便性を享受できるから、社会的意義も大きい。

林野:そう。しかもお客様の支持って、強烈な追い風なんです。当時、トップだったクレジットカード会社の発行枚数は700万枚程度だったと思います。一方、当社が即与信、即発行を始めたら、毎月10万枚、13万枚とカード発行枚数が増えていく。これなら少なく見積もっても1年で100万枚、10年で業界トップになるぞ! と(笑)。生き残るために殻に閉じこもるなんてバカバカしい。生き残るためには殻を破って、だれもやったことがないことを始めなきゃ!

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タブーを破る!
リスクは自社で引き受ける

夏目:90年代に「サインレス決済」を実現したきっかけはどのようなものだったのですか?

林野:スーパーマーケットの西友(以前、セゾングループに属していた)でセゾンカード会員を募ったら、たくさん加入していただいた割に取扱高が増えなかったんです。何でだろうと現場を見たら、理由は明白でした。レジに列ができていて、カードを使いづらい雰囲気があったんです。後ろに並んでいる人が嫌な顔をする(笑)。ならサインレスにしちゃえば、お釣りが必要ない分、むしろ精算は速くなるでしょ? だったらなくせばいいじゃないか、と。

夏目:いらないものはなくせ! ってシンプルな発想が気持ちいい(笑)。

林野:でしょう? 怖がらずにやってみればいいんです。この案だって、西友に行って「サインレス決済を実現しませんか」と話したら幹部は目を丸くして驚いていましたよ(笑)。しかし、レジの列は短くなるからと始めることになり、やったあとは、ある団体に呼ばれて「なんでそんなデタラメをやるんだ」と叱られもしました。この時は「リスクは当社がとるからいいじゃないですか!」と反論しました。

夏目:言い放ちますね!

林野:しかも実際やってみると、不正利用するお客さんは皆無でした、近所のスーパーでカードが使えなくなる方がよほど不便なんでしょう。しかもサインレスは小額の場合だけだったから不正利用するメリットも少ない。タブーに見えて、そんなことなかったんです。

夏目:"タブーを破る天才"ですね(笑)。何か林野さん流の「タブーの破り方」なんてあるんですか?

林野:いや、本質的にタブーは誰にでも破れるんです。どの業界で働いてても「なんでこんなヘンな習慣があるんだろ?」って思うこと、ありますよね? それたいてい、本当はやらなくていいことですから。

夏目:考えてみれば、その通り!

林野:もう少し詳しく言えば、まず、自分なりの「知の泉」を持つことが大事です。歴史でも、芸術でも、科学でもいい。広範な知識を持って、世界観を構築していると「こんなことおかしい」「こんなおかしなこと長続きしない」「変えちゃえば何とかなるかも」ということに気付けるはずなんです。そしたらやってみる。すると、最初は波風もたちますが、うまくいけばみんながついてきてくれますよ。目先の書類の束を右から左へ移すことなんか、仕事のうちに入らない。本当の仕事って、自分が考えた理想を実現する、挑戦的で楽しいことなんです。しかも今は、ITで技術的にもどんどん新しいことができる世の中。イノベーションは誰でも起こせますよ!

そもそも「金融」って
クリエイティブな業界ですね?

夏目:林野さん、どう育ってきたんですか?

林野:生まれは京都で、育ちは埼玉県の浦和です。将来は絶対、おもしろいことをやる! って思ってました。高校生の時には、当時乗ってた自転車に「プレジデントケネディ号」って名前をつけていたくらいで(笑)。

夏目:アツい(笑)。

林野:あとは遊びでも何でも「絶対に勝とうとする」クセがありましたね。我々が小学生の頃の遊びってベーゴマやビー玉を使っていて、負けると全部、友達に持っていかれちゃうじゃないですか。しかもこういう遊びはゲームと違ってリセットできない(笑)。だから勝つために工夫し、鍛錬もする。それがまた面白くて、日が暮れるまで夢中で続けるわけです。じつは今も、この「夢中」が心の奥底で私を動かしています。人間って、夢中になったとき、一気に進化するんです。私は子どもの頃、それを体得したんだと思いますよ。

よなよなエール

夏目:なるほど「夢中」が人生を変えるスイッチなんですね。では「永久不滅ポイント」も何か「こんなことじゃいけない!」という熱い思いがあって始められたんですか?

林野:ええ。そもそもなぜ、ポイントが1年や2年で消えちゃうかご存じですか?

夏目:消した方が会社が儲かるからですか?

林野:その通りです。簡単に言うと、お客様が1000円と交換できるポイントを持っていたら、ポイントを発行した会社は約1000円分の引当金を用意しておかなければなりません。これは大変な負担です。だからカード会社は、忘れられているポイントや、なかなか使ってもらえないポイントは消してしまいたいんですよ。

夏目:お客さんが忘れていてくれたらラッキーなんですね。

林野:でも、お客様のためになっていない。さらには会社にも弊害もあったんです。ポイントがたまるとカタログで商品を発注できるでしょ? この注文が期末のポイントが消える時期に集中するから、大量の雇用が必要だったんです。だったら、ポイントを永久不滅にしちゃえ、と。当社は現在で900億円を超える引当金を準備しています。

夏目:ビジネスとして引き合うんですか?

林野:もちろん。金融業界は差別化が難しい。どこかが新しいことをやると、すぐ横並びになってしまう。そんななか、ポイントを永久不滅にしたことは大きな差別化要因です。しかも、これにより新たな展開が可能になりました。当社はたまったポイントを運用できるんですよ。

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