Future View業界未来図

夏目幸明責任編集
21業種 経営者が語る業界未来図

夏目幸明

化粧品・トイレタリー

アース製薬株式会社(前編)

ホームランより送りバント!?

いまも業績拡大中!
アース製薬の「売り上げ倍増法」がすごい!

「ごきぶりホイホイ」「モンダミン」「アースレッド」等、様々なカテゴリーでNO.1商品を揃えるアース製薬を取材した。近年、家庭用園芸用品の分野に進出し、売り上げを倍々ゲームで伸ばしているほか、海外進出にも成功。いまも業績は順調に上昇中だ。同社はなぜ、化粧品・トイレタリーの業界で今も成長を続けているのか。入社後から営業成績NO.1を続けてきた現場叩き上げの川端克宜社長に話を聞いた。

使ってもらうためなら
親しんだ呼び方も変えるべき

夏目:最近、御社は「殺虫剤」を「虫ケア用品」と呼んでますよね。この真意は?

川端:我々の調査で、「殺虫剤」という言葉に嫌悪感を持たれる方が1~2割程度いらっしゃることがわかったんです。

夏目:何ででしょうね? 安全面では「日本の殺虫剤は間違って飲んじゃっても平気」なんて聞いたこともありますが。

川端:誤飲されたら困りますが、赤ちゃんも含め、間違いなく人体へ悪影響はありません。しかし、いい意味で社会が進化して様々な物質の体への影響を心配する方が増えているんでしょう、その結果、1~2割の方は「殺虫剤」という言葉に漠然とした不安をお感じになるんだと思います。しかも将来、こういったお客様は増えていくはずなんです。
一方、殺虫剤という言葉が嫌いなお客様に「これが殺虫剤というカテゴリーに属さなければ使いますか?」と伺ったら、皆さま「使う」とおっしゃるんです。

夏目:日本人は「ケガレ」を意識しますからね。科学的に問題ないと証明されたものでも、悪いイメージがあったら自分の近くに寄せ付けない。

川端:ならば我々は言葉に固執する必要はないかな、と。いやむしろ、せっかく安全で便利なものがあるのに使っていただけないなら、我々が慣れ親しんできた呼び方だって変えるべきなんじゃないか、と考えたんです。

夏目:とくに業界のトップシェアをとるリーディングカンパニーは、他社のシェアを奪うより、市場全体を伸ばさないと業績が伸びませんからね。

川端:そうなんです。本当にお客さん目線になるなら、自分たちが毎日のように使ってきた言葉だって、変えていくべきなんです。もちろん「虫ケア用品」という言葉を他社さんが使うことでアース製薬に商標権の使用料が入ってくる、といったことはありません。業界が伸びればいいかな、と。

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モンダミンのフタが、丸型から
カド付きになった「地味すぎる理由」

夏目:では伺いたいんですが、アース製薬さんが長期的に業績を拡大し続けてきた理由をお聞かせください。

川端:最も大きいのは、社員全員に「商品はどれだけ作りこんでも完璧じゃない」という意識があるからでしょう。メーカーの方なら共感していただけると思うんですが、自分たちが出した商品って、やっぱりかわいいですよね。ただし、残念ながら絶対に「完璧」じゃない。

夏目:そういえば私、昔、御社の「ごきぶりホイホイ」の研究室を取材したことがあるんです。そしたら、天井までアイツらが這い回っている飼育部屋を見せられて卒倒するかと思ったんですが……そのときもうひとつ「こんな完成された商品なのに、まだ研究を続けてるのか」とも思いました。

川端:完璧じゃないからです(笑)。例えば侵入角度。虫は触覚を頼りに動いているから、入口の角度が悪いと違和感を持たれ、入ってもらいにくくなるんです。だから、触覚がどこにもあたらない角度に調整したんですね。

夏目:エサも研究し続け、よく集まるものにしたと聞きました。アイツら、豚・鶏肉よりも牛肉が好きらしいですね。魚介類も、イカや貝よりエビが好きとか。なんと生意気な(笑)。

川端:あと、いろんなところを歩きまわって脚に水や油がついたごきぶりも捕獲できるよう、入口に「足ふきマット」をつけたり、粘着シートに凹凸をつけ、脚だけでなく腹も捉えて逃げられないようにしたり……。

夏目:でも、そんな小さな進化がどれくらい売り上げに関わっているんですか? 使う側はいちいち意識してないと思うんですが。

川端:いえ、以前は「ごきぶりホイホイ」にも競合商品があったのはご記憶にないですか?

夏目:えーと……。そういえば「ごきぶりゾロゾロ」とかありましたよね。でも、そういえば最近見ないな。

川端:現在、既に競合商品はありません。ほか、エアゾールの「ゴキジェットプロ」もいまやシェア8割、長細いノズルで家具と壁の隙間にも噴霧できるとか、シュッとかけると動かなくなるとか、お客様目線で進化して便利になった結果です。

夏目:考えてみれば、僕もいつしか「ゴキジェット」に乗り換えてましたね。

川端:消費者の皆さんは、ちゃんとわかるんです。ほかのカテゴリーはもっとすごいですよ。当社の家庭用園芸用品は、年々、売り上げが倍増しています。

夏目:何かすごい薬剤を開発したとか?

川端:いえ、パッケージを変えたんです。農家の方はプロだから、野菜や花を見ればどんな病気にかかったかわかり、病気の名前もご存じだから、売場で「じゃあこの薬剤を」とすぐ必要なものが買えます。一方、趣味で園芸を愉しんでいるお客様向けの商品に「うどんこ病に効く!」と書いても「うどんこ病ってなんや?」「そもそもうちのトマトは何でしおれとるんや?」となるんです。
そこで、パッケージに絵や写真を載せて「こうなってしまったらこれを使ってください」としたんです。

夏目:じゃあ、中身は変えず売り上げ倍増、と?

川端:そういうことになりますね。これも「殺虫剤」というカテゴリー名を変えたのと同様に、我々メーカー側はなかなか気付かない進化だったんでしょう。

夏目:なるほど、どの企業も「お客さん目線」なんて言いますが、そうなるのがいかに難しいかがわかりますよね。人類史を見れば、昔はたいてい「地球のまわりを太陽がまわってる」と考えてる。きっと人間は、自分を中心に考える生き物なんでしょう。

川端:しかし当社はそうじゃありません。私が事あるごとに「お客様目線」と言い続けていますからね。社員もついてきてくれています。例えば、ここに新旧のモンダミンがあるんですが、違い、わかりますか?

夏目:えーと……あ、古いほうはキャップが円形で、新しいほうにはカドがありますね。ってこれ、手が濡れているときも開けやすいように、という配慮ですか!?

川端:ええ。地味な進化でしょ? しかもこれ、プラスチックの金型を変えなきゃいけないから、数百万円単位の予算が必要だったんです。でも当社の社員は「お金がかかるからやらない」などと考えません。なぜかと言えば、私がいつもいつも言っているし、それを徹底すれば評価されるし、「お客様目線」がどれだけ大切か自社の歴史が証明してもいるからです。
だから私、全商品について「ここがどんな進化をして」と話せるんですよ (笑)。

ごきぶりホイホイ
昭和48年に誕生した初代「ごきぶりホイホイ」。
いまもなお進化を続けている一大ヒット商品だ

最新の商品より
蚊取線香がいい場合もある!?

夏目:ある経営者が「宗教はなぜ最強の組織になるか」という話を聞かせてくれました。答えは「みんなが教義を知っている状態で、みんなで毎日決まった言葉を唱えるから」。これと同じように、貴社は「お客様目線」が根付いているから「ちょっとした欠点くらい放っておいてもいいだろう」とならないんですね。

川端:よく「話すこと」を「コミュニケーションをとる」と言うじゃないですか。でも本当は「伝わった」ことでコミュニケーションが完了するわけですよね。だから私は繰り返し話すんです。すると社員は常に、お客様相談室にお寄せいただいた声や、営業が小売店さんで伺ってきた話から「お客さんはこう思っているんじゃないか」といった仮説を立てるようになるんです。私だけでなく、社員全員"お客様目線がどれだけ大事なことか!"とわかっている組織なんですね。

夏目:一方で、貴社は「ごきぶりホイホイ」とか「モンダミン」のような、市場にまったくなかった商品を創り上げてもきましたよね。最近、そういったものは?

川端:もちろん、開発を続けています。ただし、現代はいままで存在しなかったものを創り上げるホームランのような商品開発は難しい時代なのかな、とも思いますね。様々な分野の商品開発者が、よく「業界にない画期的なものを!」と力みますが、私は「それ本当に必要?」と疑問に思うことが多いかもしれません。

夏目:というと?

川端:「ごきぶりホイホイ」の誕生は昭和48年、「モンダミン」は昭和62年です。この時代は、まだお客様に悩みがあっても、それを解決できる「モノ」がありませんでした。この状況と現代はまったく異なります。いまはもう、市場に「モノ」が溢れているんです。
仮に気候の変動で日本に新しい害虫が入ってきた、といった状況があれば、当社はこれに対応した商品を出すでしょう。しかし、新しい悩みはなかなかうまれません。それより「工夫を重ねる」とか「様々なシーンに対応させる」といった進化を実現するほうが結果が出やすいと思います。

夏目:成熟産業では「ホームランより送りバント」。一歩ずつ進んでいくことが大事だよ、ということですね。ときに「様々なシーンに対応させる」とは?

川端:例えば蚊の駆除です。蚊取線香が誕生し、その次は火を使わないマット式になり、その後、液体の薬剤を電気で蒸発させるから60~90日間メンテナンスが必要ない「アースノーマット」がうまれました。いまは、スプレーをプッシュすると薬剤の細かい粒子が部屋を漂って、24時間蚊を駆除する「おすだけノーマット」も使われています。
これ、それぞれ一長一短があるんです。蚊取線香は火を使わなくちゃいけないけど、電気がなくても使えるし価格も安い。だから発展途上国ではいまも蚊取線香がよく売れます。また「おすだけノーマット」は便利ですが、換気すると効果がなくなるから、換気がいい場所、気密性がない場所では、薬剤が蒸発し続ける液体ノーマットのほうが便利です。
すべてのシーンで使え、しかも価格が安い商品ができればいいんですが、それはなかなか難しい。しかも、現代は生活スタイルが多様化しているから「この場面にはこれ、この場面には~」と選択肢を増やしていくほうが大事なんです。どれかの商品はお客様のニーズに合いますよ、と生活全般をカバーしていくことが必要なんですね。

夏目:なるほど、日用品の業界では、時代が変わって新しい悩みがうまれないと「ホームラン型の商品」は誕生しないんですね。それより、基本は「送りバント」で、改善したり、使えるシーンを確実に増やしていくことが重要だ、と。

川端:我々はごきぶり対策でも同様の提案をしています。例えば――

井上社長

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